双極性障害は一生治らない?原因や治療法、症状との上手な向き合い方まで解説

双極性障害と診断されたとき、「一生治らないのでは…」と不安に思う方は少なくありません。確かに双極性障害(躁うつ病)は、躁状態とうつ状態を繰り返す特徴があり、完全に治るというよりも「上手にコントロールする」病気だと言われています。でも、それは決して希望がないということではないんです。
適切な治療と生活管理によって症状は安定し、多くの患者さんが充実した日常を取り戻しています。この記事では、双極性障害が「一生治らない」という考え方の真偽や、上手に付き合っていくための具体的な方法について医学的な視点から解説します。不安を抱えている方やご家族にとって、理解の第一歩となれば幸いです。
双極性障害とは

双極性障害は、気分の大きな波が特徴的な精神疾患です。以前は「躁うつ病」とも呼ばれていました。この病気では、活動的で気分が高揚する「躁状態」と、気力が低下して憂うつな「うつ状態」が交互に現れます。それぞれの状態が数週間から数ヶ月続き、その間に症状がない時期もあるのが特徴です。
躁状態では「眠らなくても平気」「自信過剰になる」「おしゃべりになる」「考えが次々と浮かぶ」といった症状が表れます。一方、うつ状態では「食欲不振」「不眠または過眠」「死にたい気持ち」「何事も億劫」などの症状が見られます。
双極性障害は大きく分けて2つのタイプがあります。「双極Ⅰ型障害」は生活に支障をきたすほどの強い躁状態が特徴で、時に入院が必要になることもあります。「双極Ⅱ型障害」は、軽い躁状態(軽躁状態)とうつ状態を繰り返し、本人も周囲も病気に気づかないケースも少なくありません。
なお、双極性障害とうつ病の大きな違いは「躁状態の有無」です。過去に躁状態のエピソードがあれば双極性障害、なければうつ病と診断されるのが一般的です。症状は似ていますが、治療法が異なるため、正確な診断が重要になります。
双極性障害は本当に一生治らないのか?

「双極性障害は一生治らない」という言葉を聞くと、将来に希望が持てなくなってしまいますよね。でも、これは少し誤解があります。結論からいうと、双極性障害は適切な治療を継続することで症状をコントロールすることが可能です。
医学的には、双極性障害は「完治」というよりも「寛解」を目指す病気とされています。寛解とは、症状が治まって安定した状態のことです。完全寛解は症状がまったくない状態が2か月以上続くこと、部分寛解は一部の症状は残るものの目立った症状がない状態が続くことを指します。
長期追跡調査では、適切な治療を受けた患者さんの約24%が完全寛解に至ったという報告もあります。つまり、「一生治らない」というよりも「管理可能な慢性疾患」と考えるのが適切でしょう。
双極性障害が「一生治らない」と言われる理由の一つは、再発のリスクが高いことです。治療を中断したり、強いストレスにさらされたりすると症状が再び現れることがあります。
ただし、この「再発リスクが高い」という事実は、「治らない」ということではなく、「継続的な管理が必要」ということを意味します。糖尿病や高血圧など他の慢性疾患と同様に、長期的な視点で管理していくことが大切なのです。
双極性障害の効果的な治療アプローチ

双極性障害の治療の主な目標は、躁状態とうつ状態をコントロールし、症状の安定を図ることです。そのために、いくつかの治療法が組み合わせて用いられます。
薬物療法
双極性障害の治療の中心となるのが薬物療法です。主に使用される薬剤には気分安定薬、抗精神病薬、場合によっては抗うつ薬があります。気分安定薬はリチウムやバルプロ酸などがあり、躁状態とうつ状態の両方に効果を発揮します。抗精神病薬は特に躁状態の急性期に使われることが多く、オランザピンやクエチアピンなどが代表的です。
抗うつ薬は双極性障害のうつ状態に対して慎重に使用されることがありますが、単独では躁状態を引き起こすリスクがあるため、通常は気分安定薬と併用されます。これらの薬は医師の指導のもとで服用し、自己判断で中断しないことが重要です。効果が現れるまでには時間がかかることもあるので、焦らずに継続することが大切です。
精神療法
薬物療法と並行して行われるのが精神療法です。認知行動療法(CBT)では、ネガティブな思考パターンを識別し、より健全な考え方に変えていく方法を学びます。また、対人関係・社会リズム療法(IPSRT)は、規則正しい生活リズムの維持と人間関係の改善を重視した療法です。
家族療法では、患者さんだけでなく家族も含めた治療が行われ、双極性障害についての理解を深めるとともに、家族のサポート方法を学びます。これらの精神療法は薬物療法と組み合わせることで、より効果的に症状を管理し、再発を防ぐのに役立ちます。自分に合った療法を見つけるために、医師と相談しながら進めていくことをお勧めします。
電気けいれん療法
薬物療法や精神療法が効果的でない場合、特に重度のうつ状態や自殺念慮が強い場合には、電気けいれん療法(ECT)が選択肢となることがあります。ECTは全身麻酔下で行われ、脳に微弱な電流を流すことで脳内の神経伝達物質のバランスを整える治療法です。
現代のECTは以前のイメージとは異なり、安全性が高く、副作用も少なくなっています。特に薬物療法が効きにくい重症例で効果を発揮することがあります。ただし、一時的な記憶障害などの副作用がある場合もあるため、治療のメリットとリスクを十分に検討した上で実施するかを決定します。ECTについて不安がある場合は、医師に詳しく説明を求めることが大切です。
双極性障害の再発防止策

双極性障害は再発のリスクが高い疾患ですが、適切な対策を取ることで再発を防いだり、症状の悪化を最小限に抑えたりすることが可能です。
再発のサインを知る
双極性障害の再発には通常、初期の警告サインがあります。これらのサインに早く気づくことで、症状が悪化する前に対処できる可能性が高まります。躁状態の初期サインとしては、睡眠時間の減少やおしゃべりが増える、イライラしやすくなるなどが挙げられます。うつ状態の初期サインには、疲れやすさや集中力の低下、睡眠の問題などがあります。
自分自身の再発パターンを知るために、症状や気分の変化を日記などに記録しておくと役立ちます。また、家族や近しい友人にも再発のサインについて伝えておくと、自分では気づきにくい変化に気づいてもらえる可能性があります。
服薬を継続する
双極性障害の再発防止において最も重要なのが、医師の指示通りに服薬を継続することです。症状が改善したからといって自己判断で薬を中断すると、高い確率で再発することが知られています。
薬の服用に困難や不安がある場合は、必ず医師に相談してください。副作用の問題があれば、薬の種類や量を調整できる可能性があります。決して自己判断で薬を中断したり、用量を変更したりしないようにしましょう。
規則正しい生活リズムを保つ
生活リズムの乱れは双極性障害の症状を悪化させる要因となります。特に睡眠は重要で、睡眠不足が躁状態のきっかけとなることが多いです。
- 毎日決まった時間に起床・就寝する
- 朝日を浴びて体内時計をリセットする
- 適度な運動を日常に取り入れる
- 規則正しい食事をする
- アルコールやカフェインの過剰摂取を避ける
これらの習慣を意識的に取り入れることで、生活リズムを安定させ、再発リスクを低減できます。
ストレス管理
ストレスは双極性障害の症状を引き起こす主要な要因の一つです。ストレスをうまく管理する方法を身につけることが大切です。
- リラクゼーション技法(深呼吸、瞑想、ヨガなど)を学ぶ
- 自分の限界を知り、無理をしない
- 「ノー」と言うことも時には必要
- 趣味や楽しみを持つ
- 必要に応じて休息を取る
また、ストレスの原因となる状況を特定し、可能であれば避けるか、別の対処法を見つけることも重要です。職場のストレスが原因であれば、業務内容や勤務時間の調整を検討するのも一つの方法でしょう。
双極性障害との上手な向き合い方

双極性障害と診断されても、多くの人が充実した生活を送っています。病気と上手に付き合うためには、まず病気を受け入れることが大切です。診断を受けたときは否認や怒り、悲しみなどの感情が湧くかもしれませんが、これは自然な反応です。時間をかけて病気を受け入れることで、治療に前向きに取り組めるようになります。
家族やパートナーとのコミュニケーションも重要です。病気について説明し理解を得ることで、適切なサポートを受けられるでしょう。ただし、すべての症状を病気のせいにするのではなく、自分の言動に責任を持つ姿勢も大切です。
職場での対応としては、必要に応じて上司や人事担当者に状況を説明し、適切な配慮を求めることも選択肢の一つです。復職する場合は、最初は短時間勤務から始めるなど段階的に進めることをおすすめします。また、規則正しい生活リズムを維持できる働き方を選ぶことが重要です。
病気があっても、それはあなたの一部でしかありません。症状をコントロールしながら、自分らしい人生を歩んでいくことが可能です。
まとめ:双極性障害は適切な対応で安定した生活を送れる

双極性障害は一生付き合っていく必要がある病気ですが、決して「治らない」わけではありません。適切な治療と自己管理によって症状をコントロールし、充実した人生を送ることは十分に可能です。
薬物療法を継続し、規則正しい生活を心がけ、ストレスを適切に管理することで、再発リスクを低減できます。また、早期に症状の変化に気づき対処することも大切です。不安や疑問があれば、遠慮なく医師に相談しましょう。心療内科や精神科の専門医は、あなたの回復をサポートするために様々な知識と経験を持っています。