双極性障害で記憶が飛ぶとは?具体的な症状や原因、対策を解説

双極性障害を抱える方の中には「記憶が飛ぶ」という症状に悩まされることがあります。これは単なる物忘れとは異なり、双極性障害に伴う「認知機能障害」という症状の一部です。うつ状態では集中力の低下により新しい情報を記憶に定着させることが難しくなり、躁状態でも思考の速さや注意散漫さから状況判断能力が制限されることがあります。
この記事では、双極性障害によって記憶が飛ぶメカニズムや原因、日常生活での対策、そして記憶の問題が生じた際の対処法について解説します。症状を正しく理解し適切に対応することで、より良い生活を送るための手助けとなれば幸いです。
双極性障害と記憶障害の関係

双極性障害では、気分の波に目が向けられがちですが、実は「認知機能障害」が重要な症状の一つとして認識されています。認知機能とは、情報の処理や記憶、注意力、判断力など脳の高度な働きを指します。
双極性障害における認知機能障害は、寛解期(症状が安定している時期)でも残存することが明らかになっています。つまり、気分の波が落ち着いているときでも記憶や集中力の問題が続く場合があるのです。この事実は、認知機能障害が単なる二次的な症状ではなく、疾患の中核的な特徴である可能性を示しています。
特に記憶に関しては、日常生活の出来事を記録する「エピソード記憶」への影響が強いことが知られています。これは完全に記憶が消失するというよりも、記憶の形成や想起に困難が生じる状態です。
記憶が飛ぶとはどういう状態?具体的な症状

双極性障害による「記憶が飛ぶ」とは具体的にどのような状態を指すのでしょうか。主な症状としては以下のようなものが挙げられます。
物忘れが頻繁に起こります。学んだこと、言われたこと、物を置いた場所などを思い出せなくなることがあります。「あれ、さっき何をしようとしていたっけ?」と途中で行動の目的を忘れてしまうこともあるでしょう。
短期的な情報を保持する「ワーキングメモリー」の機能も低下します。たとえば、電話番号を聞いてすぐにメモするまでの間に忘れてしまったり、会話の内容を途中で見失ってしまったりすることがあります。
集中力の低下により、新しい情報を記憶として定着させることも難しくなります。本を読んでいても内容が頭に入らなかったり、人の話を聞いていても要点を覚えられなかったりするのです。
これらの症状は、仕事や学業、人間関係など多方面に影響を与え、時には自信の低下やストレス、不安の原因となることもあります。自分自身の記憶の変化に気づいても、それが病気の症状だとは認識できず「最近忘れっぽくなった」と単純に考えてしまうことも少なくありません。
記憶障害が起こる主な原因

双極性障害で記憶障害が起こる原因はいくつか考えられています。まず第一に、双極性障害では脳内の神経ネットワークに変化が生じることが挙げられます。脳には記憶を司る部位、集中力を維持する部位など、それぞれ異なる役割を持つ領域があります。これらの領域が適切に連携することで、私たちは日常生活を送ることができます。
しかし双極性障害では、記憶を司る脳部位と気分調整に関わる部位の機能連関に異常が生じることがあります。特に、前頭前野(思考や判断を担当)と海馬(記憶の形成に重要)の連携不全が、記憶障害に関連していると考えられています。
また、双極性障害の治療に用いられる薬剤が記憶に影響することもあります。特に「ベンゾジアゼピン系」と呼ばれる抗不安薬には、記憶障害を引き起こす副作用があることが知られています。これらの薬は高齢者や他の薬と併用している場合に、特に注意力や新しい情報を学習する能力を低下させる傾向があります。
さらに、重度の双極性障害に対して行われることがある電気けいれん療法も、一時的な記憶障害を引き起こすことがあります。この治療法は効果的ですが、治療後に一時的に記憶の問題が生じる可能性があります。通常、この記憶障害は数週間程度で改善していきます。
これらの要因が複合的に作用することで、双極性障害における記憶の問題が生じると考えられています。
うつ状態と躁状態で変わる認知機能

双極性障害の記憶障害は、病相によって現れ方が異なります。うつ状態では、思考の速度が全体的に遅くなり、集中力の低下が顕著に現れます。これにより新しい情報を取り込み、記憶として定着させることが難しくなります。「頭が重い」「考えがまとまらない」といった感覚も特徴的です。また意欲の低下により、記憶するための努力自体が減少してしまうことも多いでしょう。
一方、躁状態では思考が加速し、次々と異なるアイデアに飛びついてしまうため、一つの情報に集中できません。注意が散漫になりやすく、重要な情報とそうでない情報の区別がつきにくくなります。「頭の中が忙しい」状態となり、外部からの情報を整理して記憶することが困難になるのです。
興味深いことに、症状が落ち着いている寛解期でも、認知機能障害が持続することがあります。特に複数回の躁病エピソードを経験した方は、認知機能障害がより顕著になる傾向があります。また、罹患期間が長いほど、そして年齢が高いほど認知機能障害が大きくなることも知られています。
記憶力向上のための生活習慣改善法

良質な睡眠と記憶力
双極性障害による記憶障害の改善には、十分な睡眠が欠かせません。睡眠には脳をメンテナンスする働きがあり、特にレム睡眠とノンレム睡眠を適切に繰り返すことで記憶が定着します。
6時間以上の睡眠確保を目標にしましょう。睡眠時間が短いと見聞きしたことを覚えられなかったり、脳が十分に休まらず認知機能が低下したりします。
質の良い睡眠のためには、毎日決まった時間に起床・就寝する習慣を作ることが大切です。寝室は暗く静かな環境に整え、就寝前のスマートフォンやタブレットの使用は控えましょう。青色光は睡眠を妨げる要因となります。
適度な運動の効果
定期的な運動は脳を活性化させ、認知機能の低下予防に効果的です。特に「有酸素運動」は記憶力の向上に役立ちます。ウォーキング、ジョギング、水泳などが代表的な有酸素運動です。
週に数回30分程度の運動で認知機能改善効果が期待できます。いきなり高強度の運動を始めるのではなく、まずは無理のないウォーキングから始めるのがおすすめです。
日常生活でも活動量を増やす工夫ができます。エレベーターの代わりに階段を使う、近距離の移動は車ではなく徒歩や自転車を選ぶなど、小さな変化の積み重ねが大切です。
食生活の見直し
食事内容も認知機能に影響します。特に、高カロリーの炭水化物中心の食事や、低タンパク・低脂肪の極端な食事は避けたほうが良いでしょう。
認知機能を支える食事としては、大豆製品、緑黄色野菜、魚(特にDHAやEPAを多く含む青魚)、ナッツ類、オリーブオイルなどが推奨されています。これらの食品に含まれる栄養素は脳の健康維持に役立ちます。
また、過度のアルコール摂取は記憶力に悪影響を及ぼすため注意が必要です。適量であれば問題ないとされていますが、双極性障害の治療薬との相互作用や睡眠の質低下を考慮すると、できるだけ控えることをおすすめします。
ストレス管理の方法
慢性的なストレスは記憶力を含む認知機能全般に悪影響を及ぼします。ストレスホルモンが長期間高い状態が続くと、記憶を司る海馬の機能が低下するためです。
効果的なストレス管理法としては、深呼吸や漸進的筋弛緩法などのリラクゼーション技法、瞑想、ヨガなどがあります。また、趣味の時間を確保することや、自然の中で過ごす時間を作ることも効果的です。
特に双極性障害の方は、ストレス管理が症状コントロールにも直結するため重要です。日常的にストレスを発散できる方法を見つけ、無理なく続けられるようにしましょう。
双極性障害による記憶障害への対処法

双極性障害で記憶の問題が生じた場合、以下のような対処法が効果的です。
- メモやデジタルツールの活用:重要な情報はスマートフォンのアプリやリマインダー機能で記録する習慣をつける
- 日記をつける習慣:毎日の出来事や感情の変化を記録し、記憶の定着を促す
- 焦らない対応:記憶が飛んだときは深呼吸などのリラクゼーション法で落ち着いて対処する
- 周囲のサポート:一人で抱え込まず、家族や友人に状況を説明して助けを求める
予定表やToDoリストも活用して、記憶に頼りすぎない生活スタイルを確立しましょう。日記は医師との相談時にも役立ちます。周囲に状況を事前に説明しておくと、記憶の問題が起きたときにスムーズにサポートを受けられます。
家族ができる記憶障害へのサポート

双極性障害による記憶障害を抱える方への周囲のサポートは重要です。まず大切なのは、記憶の問題を理解し受け入れる姿勢です。記憶障害は本人が意図的に起こしているものではないことを理解しましょう。
同じことを何度も質問されても、イライラせずに忍耐強く対応することが求められます。「さっき言ったでしょ」という言葉は避け、必要な情報を穏やかに繰り返し伝えることが効果的です。
具体的なサポート方法としては、重要な約束や服薬のリマインダーを提供することが挙げられます。共有カレンダーを使って予定を管理したり、服薬時間にさりげなく声をかけたりする工夫が役立ちます。
また、医療機関への受診に同伴することも大切です。本人が症状をうまく説明できないこともあるため、日常での様子を医師に伝える役割を担えます。さらに、良好な睡眠環境の整備をサポートすることも効果的です。静かで快適な睡眠環境を整え、規則正しい生活リズムを守れるよう援助しましょう。
専門医に相談すべきタイミング

記憶の問題が日常生活に支障をきたす場合は、専門医への相談が必要です。以下のような状況では早めの受診を検討しましょう:
- 仕事や家庭生活でミスが増えたり、約束を頻繁に忘れたりする
- 服用している薬の副作用の可能性がある
- 急激に記憶障害が悪化した
- 記憶の問題に伴って不安や抑うつ感が強まっている
受診の際は、いつから記憶の問題に気づいたか、どのような状況で記憶の問題が顕著になるかなど、具体的な情報を医師に伝えることが重要です。可能であれば、症状の変化を記録したメモや日記を持参するとよいでしょう。
まとめ:記憶障害と上手に付き合うポイント

双極性障害による記憶障害は、脳内の神経ネットワークの変化や治療薬の影響など、様々な要因によって引き起こされます。しかし適切な生活習慣の改善や対処法によって、症状を軽減することが可能です。
十分な睡眠、適度な運動、バランスの良い食事、ストレス管理といった基本的な生活習慣の整備が重要です。また日常的にメモや日記を活用し、必要に応じて周囲のサポートを受けることで、記憶の問題と上手に付き合っていくことができます。
記憶の問題で困ったときは一人で抱え込まず、精神科や心療内科の専門医に相談することをおすすめします。適切な治療とサポートを受けることで、より良い状態を目指していきましょう。