適応障害で傷病手当金がもらえないと言われたら?5つの理由と受給条件、不支給時の確認ポイント

適応障害と診断されたものの、「傷病手当金がもらえない」と言われてしまった方も多いのではないでしょうか。職場のストレスや環境の変化で心身に不調をきたし、働けない状態になったにも関わらず、経済的な支援を受けられないのは非常に不安ですよね。
実際のところ、適応障害でも傷病手当金を受給できるケースは少なくありません。しかし、申請の仕方や条件の理解不足によって、本来受給できるはずの手当が支給されないケースも存在します。
この記事では、適応障害で傷病手当金がもらえない理由と、受給するための具体的な条件、そして万が一不支給となった場合の代替手段について詳しく解説していきます。現在お悩みの方はもちろん、これから申請を検討している方にも役立つ情報をお届けします。
適応障害とは

適応障害は特定のストレスにうまく対応できない状態が続き、心身に不調が現れる病気です。誰にでも起こり得る疾患で、性格や精神力の弱さが原因ではなく、ストレスと対処力のバランスが崩れることで発症します。
主なきっかけには、転職・異動などの職場環境の変化、私生活では引っ越し、結婚・死別、経済的変化なども要因となります。
適応障害の症状詳細については以下の記事で解説しています。

適応障害で傷病手当金がもらえるケース

適応障害でも、以下の条件を満たせば傷病手当金を受給できます。
- 健康保険加入など基本条件を満たす
- 精神疾患として認められる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
健康保険に入るなど基本条件を満たす
傷病手当金を受給するには、まず健康保険に加入していることが前提です。休職を始めてから最初の3日間は待機期間となり、この間は支給されず、4日目以降から対象になります。
さらに医師から「就労不能」と診断されることが必要です。症状が軽く「短時間勤務なら可能」と判断されると支給されないため、日常生活や業務にどのような支障があるのかを具体的に伝えましょう。診断書には病名、発症日、症状や就労不能期間を明記し、申請書類の記載内容にも不備がないよう確認することが大切です。
適応障害が精神疾患として認められる
適応障害の症状が重く、医師が「就労不能」と判断すれば傷病手当金の対象になります。重要なのは病名そのものではなく、働く能力があるかどうかです。
症状が日常生活や業務に大きく影響している場合、具体的な内容を医師にきちんと伝えましょう。
適応障害はうつ病や不安障害、双極性障害などと同じ基準で審査されるため、症状の変化や就労能力については継続的に医師と共有する必要があります。
適応障害で傷病手当金がもらえない5つの主な理由

せっかく傷病手当金を申請しても不支給になる場合があります。代表的なケースは以下の通りです。
- 健康保険の未加入・待機期間が足りない
- 診断書・申請書類に不備がある
- 就労可能と判断される
- 申請期限が切れてしまった
- 他の給付との重複している
健康保険の未加入・待機期間が足りない
健康保険に加入する前に発症した病気は原則支給対象外となります。転職直後に適応障害を発症した場合など、加入期間が短い場合には注意が必要です。ただし、場合によっては前職からの継続給付制度が使える場合もあるため、詳しいことは保険組合に確認しましょう。
また休職開始から連続3日間休む「待機期間」も満たさないと支給されません。適応障害は調子に波があるため「少し良くなったから」と無理をして出勤してしまうケースがあります。しかしこれが待機期間の中断につながることもあるため、出勤するときは医師と相談して判断しましょう。
診断書・申請書類に不備がある
診断書や申請書類の不備は不支給の大きな原因の一つで、診断書の病名や発症日が曖昧だったり、就労不能期間が具体的でないと審査に通りにくくなります。
適応障害は発症日の特定が難しいこともありますが、医師と相談してできるだけ正確に記載してもらいましょう。さらに申請書の事業主証明欄と診断書の内容に食い違いがないかも事前に確認してください。
就労可能と判断された場合
適応障害の症状があっても軽作業や短時間勤務できると医師が判断すれば支給対象外です。傷病手当金は「労務に服することができない」ことが条件のため、診察時には業務が困難な具体的理由を説明する必要があります。申請期間中に勤務記録が残ると不支給になることもあるため、在宅勤務やリモートワークを行った場合も正確に申告しましょう。
退職後の申請期限切れ
退職後の申請は資格喪失から2年以内に行う必要があります。期限を過ぎると原則申請できず、例外もほぼ認められません。
適応障害で体調が優れず手続きが遅れがちですが、家族や第三者に協力してもらい期限内に申請することが大切です。また退職前に受給できるか確認しておくと安心です。
他の給付との重複
業務上の発症であれば労災保険の対象になる可能性がありますが、傷病手当金との併給はできません。
また障害年金や失業保険など他制度と併用する場合、支給額が減額されることがあります。複数の制度を利用する場合どちらを選ぶべきか、あるいは組み合わせられるかを事前に確認しておきましょう。
退職後も傷病手当金を受給できる?

適応障害で退職しても、条件を満たせば傷病手当金を継続して受給できます。主なポイントは以下3つです。
確認項目 | 内容の概要 |
---|---|
継続給付制度の条件 | 退職日前日までに1年以上の被保険者期間があり、受給中または受給可能な状態であること |
契約社員・パートの場合 | 健康保険加入と要件を満たしていれば対象。勤務条件により対象外になることもある |
退職理由による違い | 受給条件は同じだが、会社都合退職は失業保険で有利になる場合がある |
退職後も受給できる条件(継続給付制度)
退職後に受給を続けるには、退職日前日までに健康保険の加入期間が1年以上あり、退職前に傷病手当金を受給していたか、受給できる状態であることが条件です。退職日に出勤すると資格を失うため、有給休暇や欠勤扱いにする必要があります。
支給は初回受給日から最長1年6か月間で、在職中の期間も含まれます。
契約社員・パートの場合の注意点
契約社員やパート勤務でも、健康保険に加入し要件を満たしていれば対象となります。契約期間満了で退職しても、病気による就労不能が続けば受給可能です。ただし、加入期間が1年未満の場合は対象外です。
パートの方は週20時間以上の勤務や月額8.8万円以上などの条件が必要で、扶養内勤務の場合は対象外となります。複数勤務の場合は各組合に確認が必要です。
会社都合退職と自己都合退職の違い
会社都合退職と自己都合退職では、傷病手当金の受給条件に大きな違いはありません。ただし適応障害の原因が職場環境にある場合、会社都合退職となれば失業保険の受給で有利になることがあります。
退職理由によっては申請書類や退職証明書の記載内容が変わるため、退職前に人事部に確認しておくと安心です。
適応障害で受給できないと言われた時の確認ポイント

不支給とされた場合でも、以下の3点を対応すれば受給につながる可能性があります。
- 健保組合や社保に理由を確認
- 診断書の内容見直し
- 証拠資料の整理
健保組合や社保への確認
不支給通知を受けたらまずその理由をはっきりさせましょう。
健康保険組合や年金事務所に問い合わせ、書類不備か医学的判断かを特定しましょう。書類不備なら修正・再提出で受給できる場合があり、また不服があれば再審査請求も可能です。理由や対応内容は必ず記録に残し、次の行動につなげることがポイントです。
医師に依頼すべき診断書記載内容
診断書の記載内容を見直し、症状が具体的に記載されているか確認しましょう。「集中力低下」や「不安感」といった抽象的な表現だけでなく「デスクワークが30分以上継続できない」「人との会話で動悸が生じる」など詳しく載せてもらうことが効果的です。また就労不能期間についても、「当面の間」ではなく期間を明記してもらいましょう。
適応障害がいつ発症したかの特定は難しいですが、できるだけ正確な日付を記載してもらいましょう。初診日や症状が悪化した日など、医学的根拠に基づいた日付設定が重要です。診察経過についても症状の変化や治療内容を時系列で記録してもらうことで、診断書の信頼性を高めることができます。
申請の裏付けとなる記録・証拠の準備
申請を裏付ける資料として、勤務記録や診療明細書、自分で記録した症状の変化などを整理しておきましょう。特に適応障害は症状の変動が大きいため、日々の症状を記録したメモは有効な証拠となります。
収集した資料は、健康保険組合に提出できる形に整理しておくことが大切です。時系列順に並べたり、症状や通院歴をまとめた表を作成したりすることで、審査担当者にとって分かりやすい資料にできます。
傷病手当金がもらえない時に利用できる制度・支援

傷病手当金を受けられない場合でも他制度を組み合わせることで生活を支えることが可能です。主な支援策は次の通りです。
制度・支援策 | 内容の概要 |
---|---|
失業保険 | 働ける状態なら申請可。病気で働けない場合は受給延期も可能 |
自治体の支援・医療費助成 | 生活困窮者支援や医療費の自己負担軽減制度 |
障害年金 | 症状が重く長期に就労困難な場合に申請可能 |
生活費貸付制度 | 社会福祉協議会による緊急小口資金や総合支援資金の貸付 |
失業保険の活用方法
適応障害で退職した場合、就労可能であれば失業保険を申請できます。病気で働けない時は受給を延期し、症状が落ち着いてから申請可能です。
軽作業可と判断された場合は早めに申請し、就労移行支援や障害者雇用枠の活用も検討しましょう。
自治体の生活支援・医療費助成制度
自治体では、住居確保給付金や生活困窮者向けの自立支援制度などを利用できる場合があります。また福祉課に相談すれば一時的な生活費の支援が受けられることもあります。
さらに自立支援医療制度を使えば通院費の自己負担が軽くなり、高額療養費制度を利用すれば医療費負担を抑えられます。
障害年金の申請
症状が重く長期にわたり就労することが難しい場合は、障害年金の対象となります。障害年金は傷病手当金と併給できますが、調整により減額される場合があります。
障害年金の認定基準において適応障害の場合も他の精神疾患と同じように日常生活能力や就労能力をもとに判断されます。初診日から1年6か月経過後(障害認定日)に申請できるため、治療と症状について記録を残しておきましょう。
生活費貸付制度の利用(社会福祉協議会など)
社会福祉協議会では急に収入が途絶えた人向けに「緊急小口資金」や「総合支援資金」といった貸付制度があります。無利子や低利子で借りられるため、当面の生活費にあてられるでしょう。
所得状況によっては返済免除される場合もあるので、利用を検討する際は返済計画とあわせて相談すると安心です。
まとめ

適応障害で傷病手当金が支給されない場合でも、理由を正しく確認すれば受給できる可能性は残されています。
たとえ不支給だったとしても、失業保険や自治体の支援、障害年金など他の制度を活用することで、生活を支える道はあります。大切なのは、金銭面が不安だからといって治療を諦めないことです。
当院では患者の方の症状や生活状況を踏まえ、安心して療養できる環境づくりをサポートしています。少しでも不安に思った方はいつでもお気軽にご相談ください。