プレゼンティーズムが企業に与える深刻な影響とは?働き方改革の流れから与党が掲げた「働きたい改革」の具体策

はじめに
現代の日本企業において、プレゼンティーズムは深刻な経営課題として注目されています。体調不良を抱えながらも無理して出勤し、生産性が低下する状態を指すプレゼンティーズムは、全国規模の調査によると、その経済損失は医療費の数倍に相当するという驚異的な数字が示されています。
プレゼンティーズムとは何か
プレゼンティーズムとは、心身の健康上の問題により十分なパフォーマンスが発揮できない状態を指します。
| 項目 | プレゼンティーズム | アブセンティーズム |
|---|---|---|
| 出勤状況 | 出勤している | 出勤していない(欠勤・休職) |
| 生産性 | 低下している | 0(完全に業務不可) |
| 企業への影響 | 見えにくい損失が蓄積 | コストが明確に発生 |
| 主な原因 | 軽度の不調・メンタル問題 | 急性疾患・重度の不調 |
全国の20~69歳の労働者1万人を対象とした調査では、約3.6人に1人が健康問題によって業務効率が低下していることが判明しています。この数字は、多くの職場で日常的にプレゼンティーズムが発生していることを示しており、企業の持続的な成長にとって無視できない課題となっています。
経済的インパクトの実態
プレゼンティーズムによる経済的損失は、実際の医療費や休職コストよりも大きいことが研究で明らかになっています。特に腰痛、首痛、メンタルヘルス問題などの一般的な健康問題が、深刻な経済的負担をもたらしており、腰痛だけでも労働者の6.7%に影響を与えています。
このような「目に見えない損失」は、企業の競争力を静かに蝕んでいます。生産性の低下だけでなく、ミスの増加、さらには長期的な休職につながる可能性もあり、企業は積極的な対策を講じる必要性に迫られています。
日本特有の職場文化との関連
日本の職場文化では、以下のような要因がプレゼンティーズムを助長しています。
- 休みにくい雰囲気
- 他者への過度な気遣い
- 人手不足による負担増
- 雇用が不安定な環境
- 「迷惑をかけてはいけない」という価値観
これらの文化的背景が、体調不良時の無理な出勤を後押ししているのが現状です。
特に20代女性のメンタル不調率が高く、40代男性や30代女性の年間プレゼンティーズム日数も多いという調査結果は、世代や性別による影響の違いを示しています。
プレゼンティーズムの主要原因と影響

プレゼンティーズムが発生する原因は複雑ですが、大きく以下の3種類に分類できます。これらの原因を理解することで、効果的な対策を講じることが可能になります。
身体的な原因
- 腰痛・首痛・肩こりなどの運動器障害
- 生活習慣病(睡眠不足・運動不足・食生活の乱れ)
- 慢性的な疲労の蓄積
メンタルヘルスの問題
- ストレス・不安・うつ傾向
- 過剰な責任感による負担
- 適切な支援が不足して症状悪化
職場環境・組織文化
- 長時間労働
- 不十分な休憩時間
- 「休みにくい」文化
- 上司・同僚からの心理的圧力

身体的健康問題の影響
運動器障害、特に腰痛や首の痛み、肩こりなどは、プレゼンティーズムの主要な原因となっています。これらの身体的な不調は、デスクワークが中心の現代の働き方において避けがたい問題として浮上しており、従業員の作業効率に直接的な影響を与えています。
生活習慣病も重要な要因の一つです。不規則な食事、運動不足、睡眠不足などが積み重なることで、慢性的な体調不良を引き起こし、日々の業務パフォーマンスの低下につながります。これらの問題は個人の健康管理だけでなく、企業の働き方そのものに起因する場合も多く、組織的な取り組みが必要です。
メンタルヘルス問題の深刻化
精神的な健康問題は、プレゼンティーズムの中でも特に深刻な影響をもたらします。ストレス、うつ状態、不安障害などのメンタルヘルス不調は、判断力や集中力の低下を引き起こし、業務品質の著しい劣化をもたらします。
特に日本の職場では、メンタルヘルス問題に対する理解や配慮が不足している場合が多く、従業員が適切な支援を受けられずに症状が悪化するケースが見られます。高い専門性を持つ従業員の過剰な義務感も、メンタルヘルス問題を悪化させる要因となっており、個人の責任感が逆に組織全体の生産性を損なう結果を招いています。

職場環境と組織文化の課題
以下のような不適切な労働環境は、プレゼンティーズムを助長する重要な要因です。従業員の心身に継続的なストレスを与え、健康状態の悪化を招きます。
- 長時間労働
- 過重な業務負荷
- 不十分な休憩時間
組織文化も大きな影響を与えています。「休むことは悪いこと」という価値観や、同僚への迷惑を過度に気にする文化は、体調不良時でも出勤を強いる心理的圧力を生み出します。このような文化の下では、従業員は自身の健康よりも会社への忠誠心を優先してしまい、結果として組織全体の生産性低下を招く悪循環に陥ってしまいます。
働き方改革との関連性

働き方改革は、プレゼンティーズム問題の解決と密接に関連しており、主な施策は次の通りです。
| 施策内容 | 企業・従業員への効果 |
|---|---|
| 残業時間の上限規制 | 過労防止・業務効率化の促進 |
| 有給休暇取得の義務化 | 休暇の心理的ハードルを軽減 |
| テレワーク・フレックス導入 | 通勤負担軽減、柔軟な働き方を実現 |
| 生産性重視の評価制度 | 「長時間=美徳」から脱却し成果志向へ |
企業は従業員の健康管理をより戦略的に考える必要性が高まっています。
法制度改革の影響
働き方改革関連法の施行により、残業時間の上限規制が導入され、企業は業務の無駄を見直し、効率的な働き方を模索することが求められています。この変化は、従来の長時間労働に依存した働き方からの脱却を促し、従業員の健康維持により適した労働環境の構築を後押ししています。
有給休暇の取得義務化も重要な変化です。年5日の有給休暇取得が義務化されたことで、企業は従業員の休暇取得を積極的に推進する必要があり、体調不良時の休暇取得に対する心理的障壁の軽減にも寄与しています。しかし、日本人の生真面目さから、体調不良時の休暇取得には依然として抵抗がある人が多いのが現状です。
柔軟な働き方の導入効果
テレワークやフレックスタイム制度などの柔軟な働き方は、プレゼンティーズムの改善に大きな効果をもたらしています。富士通株式会社の事例では、テレワーク実施率の向上が従業員の健康リスクを低減させることが実証されており、長時間労働の是正や有給休暇の取得促進につながっています。
在宅勤務やサテライトオフィスの活用により、従業員は通勤ストレスから解放され、より良いワークライフバランスを実現できるようになります。これにより、体調管理がしやすくなり、軽度の不調時でも自宅で適切に休息を取りながら必要最小限の業務を継続することが可能になります。
生産性重視への転換
働き方改革は、労働時間の長さではなく、成果や生産性を重視する働き方への転換を促しています。この変化により、企業は従業員の健康状態が業務成果に直結することを認識し、健康管理への投資の重要性を理解するようになっています。
時間当たりの生産性向上が求められる中で、プレゼンティーズムによる「見せかけの勤勉さ」は企業にとってマイナス要因であることが明確になっています。結果として、企業は従業員が心身ともに最良の状態で働けるよう、健康経営への取り組みを加速させており、これが持続的な競争力向上につながっています。
企業の健康経営戦略

健康経営は、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業が「健康経営」を推進し、従業員が心身ともに健康に働ける環境を整えることは、企業の成長と発展に不可欠な要素となっています。
健康管理制度の充実
企業は従業員の健康状態を定期的に把握し、プレゼンティーズムやアブセンティーズムを改善する積極的な取り組みを実施しています。定期的な健康診断の実施に加え、ストレスチェックの導入により、従業員のメンタルヘルス状態を可視化し、早期の介入を可能にしています。
産業医による相談窓口の設置は、メンタルヘルス不調への対応として特に有効です。専門的な知識を持つ医療従事者が従業員の健康相談に応じることで、問題の早期発見と適切な対処が可能になり、重篤な健康問題への発展を防ぐことができます。

職場環境の改善施策
従業員の快適性を向上させるため、企業は以下のような職場環境の総合的な改善に取り組むことで、従業員のストレス軽減を図っています。
- 適切な照明
- 温度管理
- 騒音対策
- コミュニケーションスペースの設置
- 休憩エリアの充実
また、以下のような従業員の健康増進を直接的に支援する施策も効果的です。
- 社内フィットネスの導入
- 健康的な食事の提供
これらの取り組みにより、従業員は日常的に健康管理に意識を向けるようになり、自身の体調変化に敏感になることで、プレゼンティーズムの予防につながります。
健康意識向上のための取り組み
従業員の健康意識を高めるための施策は、健康経営において重要な柱となっています。企業では次のような取り組みが行われています。
健康に関する教育・啓蒙活動
- 健康セミナーや研修の実施
- 健康情報の社内発信
- 専門家による講演会の開催
- 生活習慣病予防ワークショップの実施
これらを通じて、従業員が自分の健康管理を正しく理解し、日常で意識できるよう支援しています。
健康状態の把握と職場環境の改善
- 定期的なアンケートによる健康状態・満足度の調査
- アンケート結果をもとに職場環境の改善点を特定
- 従業員の声を反映した働きやすいオフィス環境づくり
これらの取り組みにより、従業員の働きやすさが向上し、結果として企業の生産性や業績向上にもつながることが期待されます。
具体的な改善策と「前向きに働きたい改革」へ繋ぐ処方箋は?

プレゼンティーズム問題の解決には、理論的な理解だけでなく、実践的で具体的な施策の実施が不可欠です。先進企業の取り組み事例を参考に、効果的な改善策を体系的に整理し、実行可能な形で展開することが重要です。
コミュニケーション強化策
社内コミュニケーションの強化は、プレゼンティーズム改善の基盤となります。上司と部下の定期的な面談制度の導入により、従業員の健康状態や仕事上の悩みを早期に把握し、適切なサポートを提供することが可能になります。また、同僚間での相互支援体制の構築により、困ったときに助け合える職場づくりが実現できます。
社内イベントの開催やチームビルディング活動の実施は、従業員同士の信頼関係を深め、健康問題について気軽に相談できる環境を作り出します。オンラインでのコミュニケーションツールの活用により、リモートワーク環境下でも密な連携を維持し、孤立感の解消にも貢献しています。
健康促進プログラムの展開
包括的な健康促進プログラムの実施により、従業員の身体的・精神的健康の向上を図ることができます。運動器障害の予防のため、デスクワーク中のストレッチ指導や、正しい姿勢維持のための設備導入などが効果的です。社内フィットネス施設の設置や、外部フィットネスクラブとの提携により、従業員の運動習慣形成を支援する企業も増えています。
栄養管理の観点から、社員食堂での健康的なメニューの提供や、栄養士による食事指導の実施も重要な施策です。オンラインでの健康プログラムの提供により、在宅勤務者も参加できる包括的な健康支援体制を構築することで、すべての従業員が等しく健康促進の恩恵を受けられるよう配慮しています。
先進企業の成功事例
DeNAでは専門部署を設けて従業員の健康状態を定期的にチェックし、「健康経営銘柄」に2年連続で選定されるなど、「健康が当たり前の社会」の実現を目指した取り組みが高く評価されています。従業員一人一人がやりがいを感じ、最大限のパフォーマンスを発揮できるよう、従業員の声を反映した働きやすいオフィス環境の実現に力を入れています。
| 企業名 | 主な取り組み | 効果・成果 |
|---|---|---|
| DeNA | 専門部署による健康管理、健康経営銘柄取得 | 従業員満足度向上、生産性向上 |
| 富士通 | テレワーク推進、健康リスク可視化 | 健康リスク低減、ワークライフバランス改善 |
中小企業でも簡単に導入できる施策として、時代の変化に合わせた新しいコミュニケーションの場づくりや、低コストで実施できるオンライン健康プログラムの活用が注目されています。これらの取り組みにより、企業規模に関わらず従業員の健康と生産性の向上を図ることが可能になっています。
個人レベルでの対策と意識改革

プレゼンティーズムの解決には、企業側の取り組みだけでなく、従業員個人の意識改革と主体的な健康管理が不可欠です。個人が自身の健康状態を適切に把握し、無理をせずに適切な判断を行うことで、組織全体の健康レベル向上に貢献できます。
セルフケアの重要性
従業員個人によるセルフケアは、プレゼンティーズム予防の基本となります。以下のような基本的な生活習慣の改善が健康維持の土台となります。
- 日常的な体調管理
- 適度な運動の習慣化
- バランスの取れた食事
- 十分な睡眠
また、ストレス管理技術の習得により、精神的な負担を適切にコントロールし、メンタルヘルス不調の予防にも効果を発揮します。
自身の健康状態を客観的に評価し、体調不良時には無理をせずに適切な休息を取る判断力を養うことも重要です。「軽い不調だから大丈夫」という過小評価は、症状の悪化を招き、結果的により長期的な生産性低下を引き起こす可能性があります。個人の健康意識を高めることで、早期の対処と迅速な回復が可能になります。
職場でのコミュニケーション改善
同僚や上司との適切なコミュニケーションにより、健康問題について気軽に相談できる環境づくりに個人レベルでも貢献することができます。自身の体調について正直に報告し、必要に応じて業務調整を依頼することは、個人の健康維持だけでなく、チーム全体の生産性向上にもつながります。
他者への気遣いも重要な要素です。同僚の変化に気づき、適切な声かけやサポートを提供することで、職場全体で健康を重視する文化の醸成に貢献できます。無理に不調を抱え込まず、助け合いの精神を大切にすることで、プレゼンティーズムの根本的な解決につながります。
働き方の見直しと最適化
個人レベルでの働き方改革として、業務の優先順位付けや時間管理の改善により、効率的な働き方を実現することが重要です。無駄な残業を避け、集中力の高い時間帯に重要な業務を配置するなど、自身の生体リズムに合わせた働き方の工夫により、疲労の蓄積を防ぎ、持続可能なパフォーマンスの維持が可能になります。
- 定期的な休憩の取得
- 適切な業務分担の提案
- 健康的な職場環境の維持への協力
- 同僚への健康意識啓発
- ストレス発散方法の確立
プライベートと仕事のバランスを適切に保ち、趣味や家族との時間を大切にすることで、精神的な充実感を得て、職場でのストレス耐性を高めることができます。個人の生活の質の向上が、結果的に職場での生産性向上と健康維持の両立を実現する基盤となります。
まとめ
プレゼンティーズムは、現代の日本企業が直面する重要な経営課題であり、その経済的インパクトはGDPの1.1%に相当する深刻なレベルに達しています。体調不良を抱えながらも無理して出勤し、生産性が低下するこの問題は、従来の「働いているから良い」という価値観から、「健康で効率的に働く」という新しいパラダイムへの転換を企業に迫っています。
働き方改革の推進により、企業は従業員の健康管理を戦略的に考える「健康経営」の重要性を認識するようになりました。以下のような多角的なアプローチにより、プレゼンティーズムの根本的な解決が可能になります。
- 柔軟な働き方の導入
- 包括的な健康促進プログラムの実施
- 職場環境の改善
先進企業の成功事例は、これらの取り組みが従業員の満足度向上と企業の生産性向上を同時に実現できることを実証しています。
しかし、企業側の取り組みだけでは限界があり、従業員個人の意識改革と主体的な健康管理が不可欠です。以下のような個人レベルでの取り組みが組織全体の健康レベル向上に大きく貢献します。
- セルフケアの実践
- 適切なコミュニケーション
- 働き方の見直し
プレゼンティーズムの解決は、企業と個人が協力して取り組む「働きたい改革」として、持続可能で健康的な働き方の実現につながるのです。
よくある質問

プレゼンティーズムとは何ですか?
プレゼンティーズムは、心身の健康上の問題により十分なパフォーマンスが発揮できない状態を指します。従来注目されてきたアブセンティーズム(欠勤や休職)とは異なり、出勤はしているものの、集中力や意欲が低下している「見えない損失」が企業に大きなダメージを与えています。
プレゼンティーズムの経済的影響はどのようなものですか?
プレゼンティーズムによる経済的損失は、実際の医療費や休職コストよりも大きいことが研究で明らかになっています。特に腰痛、首痛、メンタルヘルス問題などの一般的な健康問題が、深刻な経済的負担をもたらしている状況です。この「目に見えない損失」は、企業の競争力を静かに蝕んでいます。
日本の職場文化とプレゼンティーズムの関係はどうですか?
日本の企業文化では、体調不良でも無理して出勤する傾向が強く、これがプレゼンティーズムを助長する要因となっています。休みづらい職場文化や他者への気遣いなど、日本特有の価値観が従業員に過度な負担を強いているのが現状です。職場の人手不足や適切な休業制度の欠如、雇用不安定などの構造的な問題も、この状況を悪化させる背景となっています。
企業はどのようにプレゼンティーズムに対処していますか?
企業は「健康経営」を推進し、従業員が心身ともに健康に働ける環境を整えることが重要です。具体的な取り組みとして、以下のものが挙げられます。
- 定期的な健康診断やストレスチェックの実施
- 産業医による相談窓口の設置
- 職場環境の改善
- 健康意識向上のための研修
先進企業の事例では、これらの取り組みにより従業員満足度の向上や生産性の向上が実現されています。

