コラム

「休んでいるのに良くならない」休職者への対応――人事担当者が知っておきたい、通院・治療状況の確認と主治医との連携

書類を確認する産業医の後ろ姿

「休職に入って半年になるが、本人から連絡がほとんどない」「診断書は毎月届くが、回復しているのかどうかまったくわからない」「休職期間の延長を繰り返している」。企業の人事・総務のご担当者から、こうしたご相談をいただくことが増えています。

惟心会は、心療内科・精神科のクリニックとリワーク(復職支援)プログラムを運営しています。日々の診療のなかで、休職を経て順調に職場へ戻られる方を数多く見てきました。その一方で、残念ながら、通院の間隔が大きく空いていたり、必要な治療が十分に行われないまま、休職期間だけが長くなっていくケースがあることも事実です。

休職は、本来「治療に専念し、職場に戻るための時間」です。この記事では、医療機関の立場から、人事担当者の方に知っておいていただきたい「休職中の通院・治療状況の確認」と「産業医・主治医との連携」について、具体的な対応策をご紹介します。

目次

休職は「休むこと」ではなく「治すこと」が目的

メンタルヘルス不調による休職というと、「とにかくゆっくり休ませる」というイメージを持たれている方も多いかもしれません。もちろん、休職に入った直後は、心身を十分に休めることが何より大切です。

しかし、休職の目的は、あくまでも治療によって回復し、再び安定して働けるようになることです。そのためには、定期的に通院し、主治医の診察を受けながら、症状に応じた治療を受けることが欠かせません。

一般に、休職中の社員には、療養に専念し、回復に努めることが求められると考えられています。会社が休職制度を設け、健康保険から傷病手当金が支給されるのも、「治療に専念して職場に戻ること」が前提にあるからです。

治療が進まないまま休職が長引くと、誰にとっても不利益に

治療が十分に行われないまま休職が長引くことは、会社にとっても、社員本人にとっても望ましいことではありません。

  • 社員本人にとって:生活リズムが乱れ、体力や集中力が落ち、かえって復職が難しくなります。休職期間の満了が近づくにつれて、焦りや不安が強くなることもあります。
  • 会社にとって:代わりの人員の確保や業務の割り振りが長期化し、職場の負担が大きくなります。復職の見通しが立たないため、計画的な人員配置も難しくなります。
  • 職場の同僚にとって:業務の負担が続くことで、別の社員の不調につながるおそれもあります。
窓際で話す同僚二人

医療機関から見た「治療が進まない休職」の特徴

当院の診療経験から、休職が長引きやすいケースには、いくつかの共通点があります。

1. 通院の間隔が空いている

休職中は、症状の変化を確認し、治療を調整するために、少なくとも隔週程度の通院が望ましいと当院では考えています。ところが、なかには1か月以上受診が空いてしまう方や、診断書や傷病手当金の書類が必要なときだけ受診される方もいらっしゃいます。

通院の間隔が空くと、医師が症状の変化を十分に把握できず、適切なタイミングで治療を調整することが難しくなります。

2. 必要な治療が十分に行われていない

うつ病などでは、症状に応じて薬物療法を行うことが治療の柱の一つになります。もちろん、病状によっては薬を使わずに、休養や環境調整、カウンセリングなどの精神療法を中心に治療を進めることもあり、薬物療法が必ず必要というわけではありません。

問題になるのは、回復に向けた治療の方針がはっきりしないまま、時間だけが過ぎていくケースです。たとえば、医師から薬物療法を勧められても服薬しない、処方された薬を自己判断でやめてしまう、カウンセリングやリワークなどの提案に取り組まない、といった状況では、回復が進みにくくなります。

3. 生活リズムが崩れている

昼夜逆転の生活が続いたり、外出の機会がほとんどなくなったりすると、たとえ気分の症状が改善しても、すぐに働ける状態にはなりません。休職の後半には、規則正しい生活と、通勤や業務を想定した活動量の回復が必要です。

4. 会社との連絡が途絶えている

本人と会社の連絡がほとんどないまま時間が過ぎると、会社は状況を把握できず、本人も職場に戻るイメージを持ちにくくなります。

頭を抱える女性

企業や健保は、通院・治療状況をどう見ているのか

こうした状況に対して、企業や健康保険の側では、次のような形で通院・治療状況を確認することがあります。

傷病手当金の書類で見られる「受診日」と「治療内容」

協会けんぽの傷病手当金の申請書では、医師が記入する欄に、労務に服することができないと認めた期間だけでなく、診療を行った日数や、症状の経過・治療内容などを書く欄が設けられています。

つまり、健康保険の側から見ると、この書類は「休職中にきちんと通院しているか」「職場復帰に向けて、薬物療法を含むしっかりした治療を受けているか」を確認するためのものでもあります。当院の経験では、通院間隔が長すぎるケースなどで、協会けんぽや健保組合からクリニックに対して、治療内容に関する問い合わせが入ることもあります。

電子申請の開始で、人事から見えにくくなる情報も

2026年1月から、協会けんぽで傷病手当金の電子申請が始まりました。社員本人がスマートフォンから直接申請できるようになり、会社は事業主の証明欄を記入するだけで済むようになっています。

事務負担が減るという大きなメリットがある一方で、これまで申請書を会社経由で提出していた場合には、医師の記入欄を人事担当者が目にする機会がなくなることにも注意が必要です。これからは、申請書とは別に、通院や治療の状況を確認するしくみを社内で整えておくことが、いっそう重要になります。

産業医から主治医への問い合わせ

通院の間隔が長すぎるケースや、休職期間の延長が繰り返されるケースでは、産業医から主治医に対して、治療内容や回復の見通しを問い合わせることもあります。産業医は職場の状況をよく知る医師であり、主治医は日々の病状をよく知る医師です。両者が情報を共有することで、より適切な復職の判断ができるようになります。

白衣を着た医師と看護師

人事担当者ができる、具体的な対応策

では、人事担当者として、どのような対応ができるのでしょうか。大切なのは、あらかじめルールを決め、すべての休職者に公平に適用することです。

対応策1:休職中の「定期報告」をルール化する

休職に入る時点で、月に1回程度、本人から会社へ状況を報告してもらうことを取り決めておきます。報告の内容としては、次のような項目が考えられます。

  • 通院した日(受診日)
  • 処方の有無など、受けている治療の概要
  • 睡眠や食事、外出などの生活の様子
  • 体調についての本人の実感

決まった様式の報告書を用意しておくと、本人も記入しやすく、会社も経過を比べやすくなります。連絡の窓口は一人に決め、メールなど本人の負担の少ない方法を選ぶとよいでしょう。

対応策2:就業規則・休職規程を見直す

休職中の報告や受診に関するルールは、就業規則や休職規程に定めておくことが望ましいです。たとえば、次のような内容が考えられます。

  • 休職中は療養に専念し、主治医の指示に従って治療を受けること
  • 会社の求めに応じて、定期的に状況を報告すること
  • 休職期間の延長や復職の際には、主治医の診断書を提出すること
  • 必要に応じて、産業医との面談や、会社が指定する医師の診察を受けること

規程の見直しにあたっては、社会保険労務士や弁護士などの専門家にご相談ください。

対応策3:産業医面談を定期的に設定する

休職中も、本人の体調が許す範囲で、産業医との面談を定期的に設定することをおすすめします。産業医は、本人の話を聞いたうえで、治療が順調に進んでいるか、職場復帰に向けてどのような準備が必要かを判断し、会社に助言することができます。

対応策4:本人の同意を得て、主治医に情報提供を依頼する

通院や治療の状況に疑問がある場合や、復職の判断に迷う場合には、産業医から主治医に情報提供を依頼する方法があります。会社や産業医が所定の様式で依頼し、主治医が回答する形が一般的です。

このとき、必ず本人の同意を得ることが大切です。病歴や治療内容などの健康情報は、個人情報保護法で特に慎重な取り扱いが求められる「要配慮個人情報」にあたります。本人の同意なく、会社が主治医に直接問い合わせても、主治医は守秘義務があるため回答できません。同意書を用意し、何の目的で、どのような情報を求めるのかを本人に丁寧に説明しましょう。

チェックリストにチェックを入れる手元

対応策5:休職の「見通し」を本人と共有する

休職期間の満了日や、復職までのおおまかな流れを、本人とあらかじめ共有しておくことも大切です。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、休業の開始から復職後のフォローアップまでを5つのステップに分けて示しています。こうした流れを参考に、「いつ頃までに、どのような状態を目指すのか」を本人と確認しておくと、治療への意欲にもつながります。

対応するうえでの注意点――「監視」ではなく「支援」として

通院や治療の状況を確認することは、休職者を疑ったり、責めたりするためのものではありません。伝え方を誤ると、本人を追い詰め、かえって回復を妨げてしまうおそれがあります。

  • 目的を丁寧に伝える:「回復の状況を把握し、復職に向けて会社としてできる支援を考えるため」という目的を、はっきりと伝えましょう。
  • 治療内容の判断は医師に任せる:「薬を飲んだほうがよい」「カウンセリングは必要ない」など、人事担当者が治療の内容について意見することは避けてください。治療方針の判断は主治医の役割です。
  • 情報の取り扱いを限定する:集めた健康情報は、必要な担当者だけが扱い、目的以外には使わないようにしましょう。
  • すべての休職者に同じルールを:特定の社員だけに厳しい確認を求めると、不公平感やトラブルの原因になります。
  • 体調が悪い時期は無理をさせない:休職直後や症状が強い時期には、連絡の頻度を減らすなどの配慮も必要です。
自宅のダイニングで手帳に予定を書き込む男性

よくある場面と対応の例

ここでは、人事担当者の方からよくいただくご相談をもとに、対応の例をご紹介します。実際の事例ではなく、よくある状況をもとにした例です。

例1:毎月診断書は届くが、本人から連絡がない

休職延長の診断書は毎月郵送で届くものの、本人からの連絡はほとんどなく、電話にも出ない。こうした場合は、まず連絡の方法を見直し、メールや書面など、本人が負担を感じにくい方法で、月1回の定期報告をお願いします。報告書には受診日と治療の概要を書く欄を設け、提出の期限を決めておきます。それでも状況がわからない場合は、本人の同意を得たうえで、産業医から主治医に情報提供を依頼することを検討します。

例2:休職の延長が何度も繰り返されている

当初は3か月の予定だった休職が、延長を繰り返して1年近くになっている。こうした場合は、産業医面談を設定し、これまでの治療の経過と、今後の見通しを確認します。あわせて、休職期間の満了日と、満了時の取り扱いについて、就業規則に沿って本人に丁寧に説明しておくことも大切です。主治医と相談のうえで、リワークプログラムなど、復職に向けた具体的な準備を始めるきっかけにもなります。

例3:本人は「もう大丈夫」と言うが、生活リズムが整っていない

本人からは早く復職したいという希望があるものの、報告書を見ると、起床時間が日によってばらばらで、外出もほとんどしていない。こうした場合は、主治医の「復職可能」の判断に加えて、産業医が生活リズムや活動量を確認し、通勤や業務に耐えられる状態かどうかを慎重に判断します。生活記録表をつけてもらう、リワークに通所してもらうなど、回復の度合いを客観的に確かめる方法が役立ちます。

リワークプログラムの活用で、休職を「準備の時間」に

惟心会では、復職を目指す方のためのリワークプログラムを運営しています。リワークでは、決まった時間に通所して生活リズムを整えたり、集団でのプログラムを通じて体力や集中力、対人関係のコツを取り戻したりしながら、段階的に職場復帰の準備を進めていきます。

リワークの現場で強く感じるのは、「休職期間をどう過ごしたか」が、復職後に安定して働き続けられるかどうかを大きく左右するということです。通所の記録は、生活リズムや集中力の回復を客観的に示す材料にもなるため、復職の判断をするうえで、会社や産業医にとっても参考になります。

休職が長引いている社員や、復職の時期を迷っている社員がいらっしゃる場合には、主治医と相談のうえ、リワークプログラムの利用を検討するよう、本人に勧めてみることも一つの方法です。

当院が企業の皆さまにお願いしたいこと

当院では、休職中の患者さんに対して、少なくとも隔週程度の通院をお勧めし、症状に応じた治療を行っています。企業の皆さまと医療機関が、それぞれの役割を果たしながら連携することで、休職者の回復と円滑な職場復帰を支えることができると考えています。

  • 産業医からの情報提供のご依頼には、ご本人の同意を確認したうえで、可能な範囲でお応えします。
  • 職場の状況や、復職時に想定している業務内容などを共有していただけると、復職の判断に役立ちます。
  • 休職者が「会社に見捨てられた」「疑われている」と感じないよう、支援の姿勢を示していただけると、治療にも良い影響があります。

人事担当者からよくあるご質問

Q. 会社から主治医に直接電話をして、治療の状況を聞いてもよいですか?
A. 本人の同意がない場合、主治医は守秘義務があるためお答えできません。本人の同意書を添えて、産業医を通じて文書で依頼していただくのが確実です。

Q. 「処方の有無」を報告してもらうのは、行き過ぎではありませんか?
A. 薬の名前や量まで報告を求める必要はありません。「お薬による治療を受けているか」「主治医の治療方針に沿って治療を続けているか」といった概要がわかれば十分です。目的を説明し、本人が答えたくない項目は無理に求めないようにしましょう。

Q. 産業医がいない小規模の会社はどうすればよいですか?
A. 地域産業保健センターなどの公的な相談窓口を利用できます。本人の同意を得たうえで、会社から主治医に文書で意見を求めることも可能です。

まとめ

メンタルヘルス不調による休職は、会社にとっても本人にとっても、決して短くない時間です。その時間を「ただ休むだけ」で終わらせず、「治療によって回復し、職場に戻るための準備の時間」にするために、人事担当者ができることは少なくありません。

  • 休職は「治すこと」が目的であり、定期的な通院と治療が欠かせません。
  • 企業や健保は、受診日や治療の状況を確認しています。通院間隔が長すぎる場合には、産業医から主治医へ治療内容を問い合わせることもあります。
  • 電子申請の開始で、傷病手当金の書類から治療状況を知る機会が減るため、定期報告のルール化がより重要になります。
  • 主治医への問い合わせには、必ず本人の同意が必要です。
  • 確認は「監視」ではなく「支援」として、すべての休職者に公平に行いましょう。

休職者への対応や、職場復帰の進め方についてお困りのことがあれば、産業医や専門家とあわせて、医療機関にもお気軽にご相談ください。惟心会では、診療とリワークプログラムを通じて、働く方の回復と職場復帰を支援しています。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の労務管理や就業規則の内容については、社会保険労務士や弁護士などの専門家にご相談ください。

目次