【健康講話 2026年8月】働き続けたい、その思いを支えるために ― 一人で抱え込まない「治療と仕事の両立支援」―

「病気が見つかったので、仕事を辞めないといけないかと考えてしまいます。」
産業医面談で、ときどき受ける相談です。
がんなどの病気を抱える労働者の中には、仕事を続けることをあきらめてしまう方も少なくありません。
治療の見通しがわからない中で不安な気持ちになることは当然です。
一方、医療の進歩により、治療を続けながら働く方も多くいます。
病気は年齢に関係なく誰にでも起こり得ます。
だからこそ、治療と仕事の両立は誰にとっても身近なテーマと言えるのです。
もしもの時、仕事を辞めることだけが、唯一の選択肢とは限りません。
今月は、「治療と仕事の両立支援」について一緒に考えてみたいと思います。
今、知っておきたい「治療と仕事の両立支援」
(1)病気を抱えながら働く人が増えています
高年齢労働者の増加を背景に、病気を抱えながら働くひとは今後さらに増えると考えられます。
また、がんや脳血管疾患、高血圧、糖尿病のほか、メンタルヘルス不調などの治療を続けながら働くことは特別なことではありません。
医療の進歩に伴い、何らかの病気を抱えながら働くことは、ますます身近になっており、労働者が安心して仕事を続けられる環境づくりの重要性が高まっています。
(2)治療しながら働ける時代になった一方で
「病気になったら仕事を辞めなければならない」という時代ではなくなりつつありますが、それでも両立が難しいことがあります。
実際には、仕事の忙しさから治療を中断したり、「職場に迷惑をかけたくない」と退職を選んでしまう方もいます。
加えて、病気や治療について周囲から十分な理解が得られず、必要な支援につながらないケースも少なくありません。
(3)事業場にも変化が求められています
近年、多くの企業で健康経営やダイバーシティの推進など、従業員の健康を支える取組が進められています。
そのような中で、会社側からは「どのように配慮すればよいのか分からない」「主治医や産業医とどのように連携すればよいのか悩む」といった声も少なくありません。
治療と仕事の両立支援とは、本人・会社・主治医・産業保健スタッフが情報を共有し、治療を続けながら無理なく働く方法を一緒に考えていく取組なのです。
改正労働施策総合推進法により、令和8年4月1日から、職場における治療と就業の両立支援の取組が、事業主の努力義務になりました。
また、治療と就業の両立支援指針を踏まえ、社内の環境整備や必要な両立支援の措置を講ずることが求められるようになりました。
両立支援が目指すもの
病気になったからといって、「働く」か「辞めるか」の二択ではありません。
大切なのは、「どうすれば治療を続けながら働けるか」を考えることです。
例えば、
- 定期的な通院ができるよう勤務時間を調整する
- 一定期間、残業や出張を減らす
- 身体への負担が少ない業務に変更する
- 復職後に勤務時間を段階的に増やしていく
など、その方の病状や仕事内容に合わせて様々な方法があります。
実は、がんだけではありません
「治療と仕事の両立支援」と聞くと、多くの方は、がん患者さんへの支援を思い浮かべるかもしれません。
しかし、厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」では、他にも対象となる疾患が紹介されています。
例として、
- がん
- 糖尿病
- 脳卒中
- 心疾患
- 難病
などが挙げられています。
いずれも、適切な治療を続けながら働くことが可能な方が少なくありません。
実際の産業医面談では、病気そのものよりも、「仕事を続けられるだろうか」という不安が語られます。
「迷惑をかけるくらいなら辞めます。」
「会社にどう伝えたらよいか分かりませんでした。」
病気は一人ひとり異なりますが、「働き続けたい」という思いと、「周囲に迷惑をかけたくない」という不安は、多くの方に共通しています。
だからこそ、病気になった時には一人で結論を出さず、相談できることを知っておくことが大切です。
両立支援は、どのように進むのでしょうか
両立支援は、本人が治療を続けながら能力を発揮できるよう、仕事の内容や時間、通院などを一緒に調整していくことです。
STEP1 まずは、一人で抱え込まないこと
病気が分かったとき、多くの方は治療のことだけでなく、仕事への影響についても不安を感じます。
「仕事を続けられるだろうか」「休職しなければならないのだろうか」「職場に迷惑をかけてしまうのではないか」と、一人で悩み、結論を出そうとしてしまう方も少なくありません。
しかし、治療と仕事の両立は、一人で判断するものではありません。
まずは主治医や会社の担当者、産業医などに相談することが、第一歩となります。
STEP2 治療と仕事に関する情報を共有する
治療と仕事を両立するためには、病状や治療内容だけでなく、仕事内容や働き方についても関係者が理解することが大切です。
主治医は、病状や治療内容、通院の必要性、仕事をするうえで避けた方がよいことなど、医学的な見地から意見を示します。
一方、会社は、本人の仕事内容や勤務形態、職場で対応できることなど、どのような働き方が可能か関係者で共有します。
本人も、治療を続けながら働くうえで困っていることや希望を伝えます。
必要に応じて産業医が主治医の意見と職場の状況をつなぎ、関係者で情報を共有しながら、どのような働き方が可能かを整理していきます。
STEP3 具体的な働き方を検討する
共有した情報をもとに、会社は、本人の希望を踏まえながら、通院に必要な時間の確保や業務内容の変更など、具体的な働き方を検討します。
産業医は、主治医の意見と職場の状況を踏まえて就業上の意見を示し、本人と会社が無理のない働き方を考えられるよう助言します。
STEP4 状況に応じて見直していく
病状や治療内容は、時間の経過とともに変化していきます。
一度決めた働き方も、治療の経過や体調の変化に応じて見直していくことが大切です。
実際の進め方は職場や病状によって異なりますが、「一人で抱え込まず、関係者と相談しながら進めていく」という基本的な考え方は共通しています。
以上、全体の流れを簡単に紹介しましたが、実際の進め方については、厚生労働省のリーフレットにも分かりやすくまとめられています。
健康に働き続けるために
病気は、誰にでも起こりえます。
そして、病気が見つかったとき、多くの方は治療のことだけで精一杯になります。
産業医面談では、「相談してよかった」という声を聞きます。
だからこそ、「もし自分だったら」と考えながら、病気になった時には「一人で抱え込まずに相談する」という選択肢を思い出していただければ幸いです。




