コラム

【健康講話 2026年10月】食欲の秋、「食べすぎ」は意志の弱さ?― 食欲のしくみから考える、食欲との上手なつきあい方 ―

― 食欲のしくみから考える、食欲との上手なつきあい方 ―

「食欲の秋」といいますが、その食欲、本当にお腹が空いていますか?

「疲れたから甘いものが欲しい」「残業のあと、つい夜遅くに食べすぎてしまう」「寝不足の日ほど食欲がある」。そんな経験がある方もいるのではないでしょうか。

実は、私たちの食欲は「意志の強さ」だけで決まっているわけではありません。脳やホルモン、睡眠、ストレス、食事の時間など、さまざまな影響を受けながら調節されています。

食欲のしくみを知ることは、単なるダイエットの知識にとどまらず、日々のコンディションを整えるヒントにもなります。

今月は「食欲の秋」にちなみ、食欲が生まれるしくみを少し医学的にひも解きながら、食欲と上手につきあう方法を考えてみたいと思います。

目次

1.そもそも「食欲」はどうやって決まる?

お腹が空いたら食べ、満腹になったら食べるのをやめる。

一見単純なことのようですが、その裏側では、胃や腸、脂肪組織、そして脳が絶えず情報をやり取りしています。

例えば、胃から分泌される「グレリン」というホルモンは、空腹時に増えて脳に働きかけ、食欲を高めます。

一方、脂肪細胞から分泌される「レプチン」は、身体にどのくらいエネルギーが蓄えられているかを脳に伝え、食欲やエネルギー消費の調節に関わっています。

さらに食事をすると、腸から「GLP-1」などのホルモンが分泌され、血糖を調節したり、脳に働きかけて食欲を抑えたりする方向に働きます

つまり、私たちの脳には、

「そろそろエネルギーが必要です」

「もう十分食べました」

という身体からの情報が絶えず届けられているのです。

しかし、食欲を決めるのは、こうした「身体に必要なエネルギー」だけではありません。

お腹いっぱいなのに、デザートを見ると「別腹」が生まれる。コンビニで好きなお菓子を見ると、つい手が伸びる。

このような食欲には、脳の「報酬系」と呼ばれる仕組みも関係しています。おいしいものを食べることで「うれしい」「また食べたい」という反応が生まれ、空腹とは別に「食べたい」という気持ちが起こることがあります。

つまり、食欲には大きく、

「身体が必要としているから食べたい」という【体の空腹】と、

「おいしそうだから、気分を満たしたいから食べたい」という【心の空腹】

という二つの側面があります。

もちろん、医学的に食欲がきれいに二つに分かれているわけではありません。実際の食欲は、この「体の声」と「心の声」が複雑に影響し合って生まれています。

そして、そのバランスに影響を与える身近な要因が、ストレスや睡眠不足です。

2.ストレスがたまると、なぜ食べたくなる?

「今日は大変だったから、帰りに甘いものを買おう」

「イライラすると、つい何か食べてしまう」

忙しい毎日の中では、決して特別なことではありません。

ストレスを感じると、身体ではコルチゾールなどのストレス反応に関係するホルモンが働きます。また、ストレスは脳の報酬に関係する仕組みにも影響し、甘いものや脂質の多いものなど、「おいしいもの」を食べたい気持ちが強くなることがあります。

そして、おいしいものを食べれば、一時的に気分が和らいだり、満足感を得たりすることがあります。

すると、

ストレスを感じる → 食べる → 少し気分が楽になる

という経験が繰り返され、食べることが「ストレスへの対処法」になっていくこともあります。

ただし、ストレスがかかると誰もが食べすぎるわけではありません。逆に食欲が落ちる人もいます。

大切なのは、自分の食欲のパターンに気づくことです。

何か食べたくなったとき、

「今、本当にお腹が空いているのかな?」

「それとも、疲れている、イライラしている、気分転換したいのかな?」

と、一度考えてみる。

それだけでも、「空腹」と「食べたい気持ち」を区別するきっかけになります。

3.寝不足だと太りやすい?

体重管理というと、まず「食事」と「運動」が思い浮かびます。

しかし、もう一つ見落とされやすいのが睡眠です。

睡眠時間が短い人では、肥満や糖尿病などのリスクが高いことが多くの研究で報告されています。ただし、「寝不足だから必ず太る」という単純な話ではありません。

その背景の一つとして考えられているのが、睡眠不足による食欲や食行動への影響です。

睡眠不足によって、レプチンやグレリンなどの食欲調節に関わるホルモンや、食べ物に対する脳の反応などが変化する可能性が研究されています。また、起きている時間が長くなれば、それだけ食べる機会が増えるという側面もあります。

つまり、寝不足が続くと、単に「疲れる」だけではなく、食欲や食行動も乱れやすくなり、結果として体重管理にも影響する可能性があるということです。

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人について、個人差を踏まえながら6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保することが勧められています。

「最近、食欲が乱れているな」と思ったら、食事だけではなく、最近きちんと眠れているかも一緒に振り返ってみましょう。

睡眠を整えることも、実は体重管理の一部なのです。

4.昼食後の眠気と食事の関係

「昼食を食べると眠くなる」

オフィスでよく経験する現象です。

最近では「血糖値スパイク」という言葉もよく聞かれるようになり、

「食後に血糖値が急上昇し、その後急降下するから眠くなる」

と説明されることがあります。

しかし、昼食後の眠気を、血糖値の変動だけで説明することはできません。

人間にはもともと午後に眠気が高まりやすい時間帯があり、そこに睡眠不足や食事量、食事内容など、さまざまな要因が加わります。

一方、食事をすると血糖値が上昇し、それに応じてインスリンが分泌されます。食後血糖の上がり方は、食事の量や糖質の量だけでなく、一緒に食べる食品や身体活動などによっても変わります。

そこで、午後のコンディションや長期的な健康管理という視点から意識したいのは、「糖質を食べない」ことではなく、

  • 昼食を食べすぎない
  • 丼や麺だけで済ませず、野菜やたんぱく質なども組み合わせる
  • 急いでかき込まず、少しゆっくり食べる

といった食べ方です。

また、食後に身体を動かすことは、食後血糖の上昇を抑える方向に働きます。

激しい運動は必要ありません。昼食後に少し歩く、エレベーターではなく階段を使う、少し遠い場所まで歩いてみる。

午後の仕事を始める前の「食後のちょっとした運動」は、オフィスワーカーにも取り入れやすい習慣です。

5.健診結果から見える「生活習慣」のサイン

食生活の影響というと、つい「体重」だけを見てしまいます。

しかし、健康診断では、もう少し広い視点で身体の変化を見ることができます。

例えば、

  • BMI・腹囲
  • 血圧
  • 空腹時血糖・HbA1c
  • 中性脂肪
  • HDL・LDLコレステロール
  • ALT・γ-GTPなどの肝機能

などです。

もちろん、これらの数値は食生活だけで決まるものではありません。

それでも、体重や腹囲が増えるとともに、血圧や中性脂肪、血糖などにも変化が現れてくることがあります。

逆に、BMIだけを見て「まだ肥満ではないから大丈夫」と考えるのも十分ではありません。

健診結果で大切なのは、一つの数字だけではなく、複数の項目とその経年変化を見ることです。

「正常範囲に入っているか」だけでなく、

「去年より体重が増えた」

「腹囲が少しずつ増えている」

「血糖や中性脂肪が年々上がっている」

といった変化にも目を向けてみてください。

健診結果は、病気を見つけるためだけのものではありません。

今の生活習慣や身体の状態を振り返る、一年に一度の“定点観測”として活用することもできます。

6.明日からできる、食欲と上手につきあう5つの工夫

食欲のしくみが分かったところで、最後は実践です。

食欲を完全に「コントロールしよう」とするより、食べすぎが起こりにくい環境や生活リズムをつくる方が現実的です。

  1. 極端に空腹になるのを避ける

忙しいからと昼食を抜き、夕方には空腹で限界。その状態でコンビニや夕食を迎えれば、食べすぎにつながることがあります。食事の間隔が大きく空く日は、無理に我慢しすぎないことも大切です。

  1. 少しゆっくり食べる

速く食べる習慣と肥満には関連があることが知られています。「一口30回」と決めなくても、スマートフォンやパソコンから少し離れて、食事そのものに意識を向けてみましょう。

  1. 残業する日は「分食」を考える

帰宅が22時、23時になることが分かっているなら、夕方に軽く食べ、帰宅後の食事を軽めにする「分食」も一つの方法です。

私たちの身体には「体内時計」があり、代謝の働きも一日の中で一定ではありません。そのため、「いつ食べるか」も身体の代謝と関係することが分かってきています。

空腹を限界まで我慢して、深夜に一度にたくさん食べるより、帰宅が遅くなる日は、夕方と帰宅後に食事を分ける工夫をしてみましょう。

  1. 食後に少し身体を動かす

昼食後に短時間歩くだけでも構いません。「運動する時間がない」と考えるより、日常生活の中に細かな活動を取り入れてみましょう。

  1. 「空腹?」それとも「ストレス?」と一度考える

甘いものに手を伸ばす前に、一度だけ自分に問いかけてみます。

本当に空腹なら、食べる。

一方、「疲れた」「イライラする」「ご褒美が欲しい」のであれば、散歩、入浴、音楽、誰かとの会話など、食べること以外の気分転換が使えることもあります。

完璧にできる必要はありません。

自分がどんなときに食べすぎやすいのかを知り、その場面を一つだけ変えてみるところから始めてみましょう。

7.健康に働き続けるために

食欲は、私たちが生きるために備わっている大切な仕組みです。

だからこそ、「食べたい」という気持ちそのものを悪者にする必要はありません。

一方、現代の生活では、空腹だけではなく、ストレス、睡眠不足、長時間労働、食べ物を目にする機会など、さまざまなものが私たちの食欲に影響しています。

大切なのは、食欲を力ずくで我慢することではなく、食欲が乱れにくい生活を整えることです。

きちんと眠る。

空腹をため込みすぎない。

少しゆっくり食べる。

食後には少し身体を動かす。

ストレスを食べることだけで解消しない。

そして、ときどき、

「今の私は、本当にお腹が空いているのかな?」

と自分に聞いてみる。

この秋は、おいしいものを楽しみながら、自分の「食欲」と少し上手につきあってみてはいかがでしょうか。

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